東京地方裁判所 昭和55年(ワ)11899号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一原告らはいずれも被告神祇社殿の信徒であり、更に原告粉川は同被告の責任役員でもあることを前提に、被告らに対し請求の趣旨記載の判決を求めるところ、被告らは、原告らには本件訴につき当事者適格がないと主張するのでこれを検討する。
二宗教法人法が寺院を法人として認めている以上、その寺院の財産はそもそも寺院自身の所有であつて、右財産につき信徒がその寺院の規則等において何らかの財産上の権利を認められていない限り、信徒たる地位に基づいて所有権その他の権利を有するものではないことは明らかであるといわざるを得ない。
もつとも宗教法人法第二三条は、宗教法人たる寺院が同条所定の不動産等の処分等をなす場合には、規則等で定めるところによる外その行為の少くとも一月前に信徒その他の利害関係人にこれを公告すべき旨規定し、同法第二四条は、右公告を経ずになされた一定の不動産等の処分行為を無効とする旨規定しているが、これは寺院境内建物もしくは境内地にある不動産等は、寺院の礼拝施設であつて当該寺院の信徒に宗教上重大な利害関係があるから、同法第二三条や規則により公告を義務づけ、信徒その他の利害関係人に対し、その処分行為の適正性や妥当性等につき意見を述べる機会を与えることにより、それが濫りに又は不当に処分されることを防止することにあると解される。
しかしながら、右公告手続に違反した行為も当然無効ではなく、同法第二四条但書は、「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない。」として、善意、軽過失者の保護をはかつているのであり又右第二三条による信徒等の意見の取り扱いについても、宗教法人法は何らの規定を設けておらず、宗教法人の自治に委ね、ただ宗教法人の代表役員らが、健全な常識によりこの意見にそつて再検討することを期待しているにすぎないのであつて、宗教法人の右不動産等の処分に関しては、それ以上の保護を信徒その他の利害関係人に与えてはいないと解すべきである。
しかして被告神祇社殿の規則において、寺院財産につき信徒に財産上の権利を認めていることについては、原告らにおいて何ら主張しないところである。それ故被告三者間における本件不動産等の処分行為に限つていえば、信徒たる原告らは、右につき何らの財産法上の利害関係を有しないものというべきである。
ところで、このような財産法上の利害関係を有しない信徒が、寺院の財産処分につきその無効確認を求めるについては、(確認判決の効力は訴訟当事者にのみ及ぶとする原則と法律関係の画一的確認の要請等の見地から)法律が特にその権限を付与するのでなければできないところ、現行法上信徒が寺院の財産処分につき無効確認を求めることができる旨の規定は存しない。
したがつて、寺院の財産処分が宗教法人法第二四条により或は規則違反により無効であるとした場合でも、その無効確認を訴求し得る者は、当該寺院その他その財産につき直接財産上の利害関係ないし権利を有する者に限られ、信徒のごとき単に宗教上の利害関係を有するに過ぎない者は、そのようなことを訴求することはできないものというべきである。
しからば、仮りに原告らが被告神祇社殿の信徒であるとしても、原告らは被告三者間における本件不動産の処分行為につき被告らにその無効確認を求める訴については、その当事者適格を欠くというべきである。
なお、原告粉川は、責任役員として、損害賠償責任を追及されるおそれがあるから、本件確認の利益がある旨主張する。成程商法第二六六条の三、第二六六条のような特別規定はないものの、宗教法人法上の法人の役員は、同法第一一条第二項の、或は他の役員が第三者に損害を与えることを認識し、もしくは認識し得べきであつたためにこれを抑止し得なかつた場合の過失責任等を問われることがあり得るが、その場合右紛争の抜本的解決にとつて、本件訴は必要且つ適切な方法とは認められず、右紛争の生ずることを前提とする本件訴は即時確定の利益を欠き不適法なものといわざるを得ない。
(根本久)